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大阪地方裁判所 昭和30年(ワ)2301号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔事実〕原告は昭和二九年八月四日被告から同人所有の建物をその敷地の借地権と共に代金一、一〇〇万円で買い受けることとし、同時にその借地権については被告において同年九月三〇日迄に地主の承諾を得て原告に移転する旨の約定をし、手付金一二〇万円と代金の一部金七七五万円を支払つた。ところが、本件敷地地主はAではなく、本件建物は地主との間で無権限で建築されていたので、被告は右借地権の移転義務を履行しない。

このような事実関係の下で、原告は被告に対し次のような予備的併合の請求をしている。

(一) 契約締結当時に存在するとされていた借地権が存在しない場合は、目的物に隠れたる瑕疵があるというべきであるから、瑕疵担保責任(民法第五七〇条)を免れない。本件(建物と借地権)売買代金は一、一〇〇万円であり、借地権を伴なわない建物のみの価額は二〇〇万円と見るのが相当であるから、前者から後者を控除した九〇〇万円を、右責任に基く損害賠償として求める。

(二) 建物と共に移転されるべき借地権がなかつたために、原告は無権限でその敷地を使用することとなり、地主に対して建物を収去して土地を明け渡さなければならない状態にあるから、民法第五六七条を類推して、同条に基く損害賠償を求める(損害額は(一)と同じ)。

(三) 借地権が存在しないことは、民法第五六三条第一項所定の「売買ノ目的タル権利ノ一部ガ他人ニ属スルニ因リ売主カ之ヲ買主ニ移転スルコト能ハサルトキ」に当る。借地権の価額は九〇〇万円であるから、右法条に基き同額の代金減額請求に応ずべきである。

(四) 履行不能に基く填補賠償請求。

(五) 詐欺(借地権の移転が可能とする点について)に基く損害賠償請求(被告は、仮定的抗弁として、原告が調査義務を怠つたとして過失相殺を主張している)。

〔判断〕裁判所は、右事実関係を認定し、本件売買契約は被告が有せず又地主との関係で移転不可能な事情にある借地権を売買の目的としているものであるから、原始的に不可能なことを目的としている契約である(従つて後発的ないわゆる履行不能の問題は起らない)としたうえ、請求の順序に従い次のように判断している。

(一) 原告は民法第五七〇条の瑕疵担保の規定に該当すると主張するのであるが、同条にいわゆる「隠れたる瑕疵」とは、取引界で要求される普通の注意を用いても発見されないものを指称すると解すべきところ、建物の売買においては買主においてその敷地借地権の有無、承継が可能かどうかについて当然調査すべきであると考えられ、本件のような瑕疵は調査によつて容易に発見しうるから、隠れたものとはいいえないのみならず、証拠上原告は本件契約を締結するに際して、借地権の有無、承継の可能か否かについてはもとより、敷地所有者が誰であるかも調査することなく、漫然被告の代理人の言を信じたとの事実が認められるから、原告の瑕疵担保の主張は採用できない。

(二) 次に原告は民法五六七条に該当すると主張するのであるが、同条は売買の目的たる不動産の上に存した先取特権または抵当権が実行された結果、買主が買受けた不動産の所有権を失つた場合の規定で、本件の場合に適用すべきでなく、またこれを類推適用すべき根拠もないから、原告のこの主張も理由がない。

(三) 更に原告は民法五六三条一項により本件売買代金の減額を請求するのであるが、本件においては建物とともにこれに伴う借地権が売買契約の目的とされ、証拠上においても、建物及び借地権は不可分の関係にあつて、買主たる原告は借地権を伴わない建物として買い受けることを予期しなかつたであろうと認められ、かつ借地権の存しない建物はいわば取り毀される建物で、借地権の存する場合の建物とは質的に別個のものとみられるから、本件契約の目的物としての範疇に借地権を除いた建物部分のみを考えうる余地なく、従つて右建物のみの売買として借地権を伴つた建物の代価から右建物部分の価格を控除した金額を減額すべきであるとの原告の請求は失当であり、原告が被告の担保責任を問うためには本件契約の全部を解除し、その損害賠償請求権を取得してはじめて可能であるといわねばならない。

(四) 原告は、被告から借地権が伴つていると欺罔されて本件売買契約を締結したものであるとし、その損害額の範囲につき。

被告の右不法行為による損害について検討するのに、本件は原告が敷地の所有者から土地の明渡を求められて建物の所有権を失うに至つた場合ではないのであるから、右損害は本件建物を収去しその敷地を明け渡したときにおける原告の喪失する利益ではなく、被告の不法行為により原告が借地権を伴わない本件建物を借地権が伴つているものとして買い受けた結果、被告に対し負担するに至つた本件売買代金一、一〇〇万円の債務額から、原告が現実に利得した借地権の伴わない本件建物の価格を控除した差額をもつて原告の被つた損害と認むべきである。……なお本件建物の借地権を伴わない場合の価格は借地法一〇条による建物の買取請求権の有無によつて異なるものと考えるべきところ、原告において地主に対し本件建物の買取請求権を行使しうるとの事実関係を確認するに足る証拠がないから、本件建物は買取請求権がないものとしてその価格を決定すべく、鑑定の結果によれば、昭和二九年八月における右標準による本件建物の価格は三一〇万円と認められるから、原告の被つた損害は結局右一、一〇〇万から三一〇万円を差し引いた七九〇万円となる。

しかしながら他方、前記認定の事実からすれば、原、被告が借地権を伴うものとして建物の売買契約を締結し、借地権の存する場合の価格に応じてその代金額を約定するに至つたことにつき、原告にも重大な過失があると認むべきで、本件損害の発生に関する前記認定の諸般の事情を考慮して原告の右過失を斟酌すると、被告の損害賠償債務額は五四〇万円と認めるのを相当とする。

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